物件名 | : | しぜんの国保育園(きゅうえんしゃ) | |
所在地 | : | 東京都町田市忠生2-5-3 | |
主要用途 | : | 子育て広場、学童保育 | |
発注者 | : | 社会福祉法人東香会 | |
構想 | : | 社会福祉法人東香会、TRAVEL FRONT | |
延床面積 | : | – | |
設計期間 | : | 2022年1月8日〜2022年6月27日 | |
工事期間 | : | 2022年6月28日〜2022年8月30日 | |
担当 | : | 中佐昭夫、天野徹平、原巧 | |
ロゴ・サイン | : | TRAVEL FRONT | |
施工 | : | ジーク | |
掲載 | : | しぜんの国保育園旧園舎の再活用【前編】〜関わった人たちの視点 | |
: | しぜんの国保育園旧園舎の再活用【後編】~懐かしさとこれからと | ||
写真 | : | ナフ・アーキテクトアンドデザイン | |
運営母体である東香会は、2014年にしぜんの国保育園(small village)が新園舎として完成する少し前から、利用されなくなる旧園舎の活用についてTRAVEL FRONTと共同で構想を練り始めていた。 活用構想は2013年の初期段階から2016年の更新を経て「moco」という名称になり、「こども中心の風景づくり」が掲げられた。2019年に子ども食堂、2021年には子育て広場や学童保育の事業が加わり、予算確保の目処が立った2022年から設計者としてそこに合流することになった。 その「moco」におけるコンセプトは、 しかしある意味、設計して建築を完成させることが「ミッション達成」そのものであり、それが直接的に取り組む対象ではないとなると、どのように進めればいいのか正直に言えば戸惑った。 その答えが「循環」にあるはずで、メンバーと定期ミーティングを重ねると同時に、東香会理事長である齋藤紘良氏、TRAVEL FRONTのオーガナイザーである野田恒雄氏に個別で相談するなど、進め方の手がかりを求めて模索した。 齋藤紘良氏は近年、地域文化事業として「 YATO(谷戸)」に注力しており、副住職を務める町田市忠生の簗田寺を拠点に、長い時間をかけて形成されてきた土地の歴史や性質を知り、体感する活動を重ねながら、今後500年間続く文化催事の構造を設計していこうと試みている。旧園舎はその簗田寺に隣接していて、YATO の考え方には参照できる様々な手がかりがあった。 模索しながら徐々に実感を掴んでゆく中で、 子ども食堂のためのキッチンや子育て広場のための水回りは実用面ですぐにでも必要なので、不足機器を新規補充して整備し、それ以外はできるだけ新たな造作や仕上げを持ち込まない方針で工事は進んだ。子どもたち、保育園・簗田寺の関係者、アーティスト等がこれから関わる余地を残し、仕上げはその活動によってその時に導き出される想定とした。園内にあった廃材やオブジェを什器やサインに再利用したり、解体した痕跡を塗りつぶさずそのまま見せたり、工事の進捗に伴って変化する判断や調整が引き渡しまで続けられた。 結果として、実用面で整備した部分を除けばどこが新しくなったのか元のままなのか、表層では区別がつかない状態になったが、引き渡し後のお披露目会で招かれた方々から様々な歴史やエピソードが語られるのを聞き、深層ではいかにこの場が時間的奥行きや複雑な関係性を備えているかを再認識することになった。と同時に、そのように語られることをきっかけとして、利用されないまま止まっていた旧園舎の時間が再び流れ始めることも予感した。 つまり今回の設計は、一時停止していた旧園舎の循環に対し、再始動に必要な状態を整えるというミッションだったのではないだろうか。そして、その達成がなされた次の瞬間には別の状態に向かって動き始めているということなのだ。施設名称は「きゅうえんしゃ」に引き継がれ、新たな活動の場として2022年末にオープンした。 実は旧園舎が保育園として使われていた十数年前、下足入れ・トイレ・配膳カウンター等の部分改装で何度か設計に関わった経緯があり、それはまだあちこちに残されていた。今回の設計ではそういう意味で過去の自分と向き合うことになったが、それも循環内にあったと言えるのだろう。 本来、建築の設計をするということは、循環と一体になった建築の歴史の中に自身の行為を位置付けるということなのかもしれない。そうした視点から、設計することの意味や可能性についても再認識することになった。 -中佐昭夫- |